フィガロの結婚」とは懺悔と許しの物語である。1日のどたばた騒ぎの後、観念した伯爵が夫人に許しを請う。夫人が許しを与える。こここそがこの物語のクライマックスである。ゆえにこの美しい部分は、じっくりと演奏してほしい。
さらに、夫人は伯爵が一言許してくれといったら、いつでも喜んで許す姿勢でいたのである。つまり、この1日のどたばた騒ぎはのその程度の茶番でしかなかったということである。であるからあまりにも深刻に演じられても、舞台が重くなるばかりである。(だからといっておちゃらけては、元も子もないが)
そういった意味でも、わたしにとっての理想的な舞台は1980年ベームということになる。
伯爵がスザンナと浮気しようとしている。夫人はスザンナと二人で小姓ケルビーノに女装させ、スザンナの振りをさせて伯爵に会わせて懲らしめようとする。その為の女装を夫人の部屋で行う。スザンナに小物を取りにいかせる。予想外に伯爵がたずねてくる。夫人は浮気を疑われてはと、慌ててケルビーノを衣装部屋に隠す。伯爵が怪しみ、衣装部屋をあけろという。鍵がないと夫人、じゃあいっしょにとりにいこう、この部屋に鍵をかけて、と伯爵。やり取りの間にスザンナが部屋へ戻り物陰にかくれ様子をうかがう。伯爵と夫人が衣裳部屋の鍵を取りに立ち去ったあと、スザンナはケルビーノを窓から逃がし、自分が衣裳部屋へ隠れる。伯爵と夫人が帰ってくる。衣裳部屋からケルビーノが出てきたら、夫人絶対のピンチである。
ところが出てきたのはスザンナ、伯爵も夫人もびっくり。ところが(わけはわからないが)一気に形勢逆転と見た夫人が「アアア!」と小声で笑うのである。それも、いかにもシメシメといった感じで。場内大受けである。こんな演出それ以降一度も見たことがないのである。だからしつこく1980年のベームと言い続けているのだ!

あと、登場人物の年齢設定であるが、伯爵、夫人とも、一般のこの舞台に対する印象より、よりずっと若いはずである。つい何年か前に、「セヴィリアの理髪師」で熱い恋物語を演じたはずの二人が、「フィガロ」で急に中年夫婦になるはずがないのである。もしそうならフィガロも中年にならなくてなならない。そんな意味でエストマン指揮の映像はおもしろい、伯爵、夫人とも群をぬいた長身かつ若く美形なのである。伯爵は色気たっぷりで、これなら浮気っぽいのもうなづける感じだ。