Let's Get It on(1973)

Marvin Gaye
ジャズ色の強い映画のサントラをはさんで発売されたこのアルバムは、"What's Going On"に続くコンセプト・アルバム。ただし、"What's Going On"のテーマは社会問題だったが、こちらはもっと直接的な性愛がテーマで、このアルバムのヒットにより、すっかり彼はセックス・シンボルとなった。だから先日書いたライブ・アルバムの観客の熱狂ということになるわけだ。当時のリスナーの気持ちもよく分かるほどに、切ない官能的なラブソングが連綿と続く。
彼は、いわば破滅型の天才の一人で(ドラッグ癖もあった)当時17才年上の奥さんがいながら、後に再婚する17才年下の恋人との出会いが、このアルバムを生んだといえる。ちなみに次々作は、その年上の奥さんとの離婚問題がテーマ。
全体に、ベースとバスドラの音圧が高く、リズムが強調されているのも、テーマに沿って意識的に行っているのだろう。先日も書いた「遠い恋人」は、ワーグナーのトリスタンの無限旋律にひけをとらない官能性をもっており、永遠に終わって欲しくないと願ってしまうほど。余談だが、この曲のバックコーラスが、上昇音階で「ウーウーウーウーウーウーウーワオ」と言うところと"every moment"という歌詞のファルセットになるところは、いつ聴いてもぞくぞくする。
「破滅型の天才」については、最終アルバムの項で書くことになると思う。