ブルックナー 交響曲第8番

クナッパーツブッシュ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1963年1月24日ライブ
先日ちょっと書いた、オリジナルマスターからのクナのブル8、ミュンヘン・フィルライブである。
超名演のミュンヘン・フィルとのスタジオ盤は、録音上の欠点がひとつだけある。第1楽章、第40楽章の2拍目頭が何分の1秒かの欠落があるのである。これはオリジナルのマスターから欠落がある事が原因で、今後永久にこの演奏の完璧なものは世に出ようが無いということなのだ。
そしてこの、スタジオ直前のライブ(放送用のモノラル録音)であるが、第1楽章は、奇跡のようにスタジオと同じである。音は先日の5番のように抜群にいい。これだけいいのだから、逆になんでステレオで録っておいてくれなかったんだ、という気がする。それにより、欠落のあるスタジオ盤に取って代わって、ブル8第1の名演の地位を得られたかもしれないのに。
第2楽章(スケルツォ)は始まりこそスタジオ盤と同じ速さだが、クナ独特の息の長いアッチェランドでいつのまにか若干テンポが上がっている。
第3楽章(アダージョ)は、スタジオ盤よりほんの少しだけ速い(それでも充分に遅いが)スタジオ盤が異様に遅いのは事実。そのせいか、このアダージョが持つ普遍的な美しさが表現されている。さてどちらがいいかというと難しい。スタジオ盤の異様な遅さに慣れると、踏みしめるような噛み締めるような音の運びもなかなかに捨てがたい。残念なのは、クライマックスでハープの音が聞こえない事。録りきれなかったのか、ライブではハーピストがいなかったのか(確かここしか出番が無いはず)
2009.1.1 わずかながら聴こえた。
第4楽章は、イントロをはじめ、テンポが上がりそうになる楽員を、クナが抑えているような箇所がいくつかある。それほどにこの楽章も遅く、踏みしめるような演奏。臨場感はすさまじいものがあり、クナが床を踏みしめる音、振った腕が空気を切り裂く音も聴こえる。しかし、出てくる音は最上の癒し系。よくぞここまでライブでやった。演奏が終わった瞬間、客席は呆然としているかのように、しばらく音も無い。ようやくぱらぱらと拍手が始まると、みんな我に帰ったかのように万雷の拍手となる。この場にいた人はこれ以上の幸せは無かったであろう。
しかし、よほどのクナのファンでなければ、スタジオ盤で足りるとは思う。スタジオ盤を聴きこんだ人が買うべき。