殺人は広告する(1933)

ドロシー・L・セイヤーズ
名作と言われる「ナイン・テイラーズ」の筆が進まず、契約履行のために、彼女が働いたことのあり、かつ読者の興味を引くであろう広告業界に麻薬問題をからませた、間に合わせの作品。これはセイヤーズ自身が認めており、彼女自身が気に入らない作品と断じている。しかし、さすがにセイヤーズで、そんな作品でもあだやおろそかにはできない。というかセイヤーズ節は絶好調で、充分面白い。

「ほしい時にほしいものだけを買う富裕階級ではなく、手の届かない贅沢と、永久に我がものにならない余暇とに焦がれてやまず、甘い言葉や叱咤に乗せられて、苦労して稼いだシリングを、一瞬でもゆとりと贅沢の錯覚を与えてくれるものに注ぎこんでしまう層の上に、産業の大いなる上部構造は築かれ成り立っているのだ」
上記を初めとする、虚業としての広告業界、ひいては現代社会に対する批評は、けっして目新しい物ではないが、その対象となる時代が、実は80年近く前であるのだということを思い起こせば、人類は果たして進歩しているのか、首を傾げざるを得ない。
さて、いよいよ次は最高傑作の呼び声高き「ナイン・テイラーズ」だ。