大麻鎮子

高木彬光の「成吉思汗の秘密」はご存知の方も多いと思うが、一種特異な歴史推理ものである。神津恭介シリーズにはあまり思い入れが無い私が、この作品だけは若い頃から何度読んだかわからない。ストーリーもほとんど頭に入っていると言っていい。
今回書くのは、その内容について云々の話ではない。この作品には一種のヒロイン役として大麻鎮子という女性が登場する。女嫌い(?)で独身のまま名40に手が届こうとする神津恭介と、互いに運命を感じ、最後には結ばれるのでは?ということを示唆して話は終わる。
「神津恭介シリーズにはあまり思い入れが無い」と書いたぐらいだから、若い頃はこの作品の前後も知らなかったし、今みたいにネット時代でもないから調べる手段も無く、かなりロマンティックな成り行きに、個人的には結ばれてくれればいいなあ、等と思うに止まっていた。
それが、たぶん「古代天皇の秘密」だったと思うが、大麻鎮子はその後交通事故死した、という件がさらっと書いてあって、大ショックを受けたものだ。作品としてその事故が語られているものがあるかと、随分探したが無いらしい。
探偵の結婚というのは難しい。江戸川乱歩も、「魔術師」で登場した文代と明智小五郎を結婚させたが、何作品かで明智の助手として活躍させたはいいものの、その後は居場所が無くなったのか、病気療養中ということになり、さらにその後は行方が知れない。
神津恭介は冷徹そうに見えながら、若い女性にとってはかなりフェロモンを感じさせる設定らしく、その後も若い女性に慕われるストーリーが散見する。だから、単純に大麻鎮子が邪魔になったのだろうということは容易に想像がつく。しかし、しかしである。「成吉思汗の秘密」の成り行きは(個人的には)本当にロマンティックだったので、「そんなにあっさり殺すなよ〜。それならなんで思わせぶりな書き方したんだよ〜」という憤慨に近い気分だったのだ。どうしても死なせなきゃならなかったのなら、せめて作品の中で重要なシチュエーションとしてドラマティックに死なせて欲しかった。等と昔は思ったものだった。という思い出話。(やはり私はロマンティストなんだろうか・・・)