ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」

ホグウッド指揮 エンシェント室内管弦楽団(1988)
ふと思い立って久々に聴く。いわゆるピリオド演奏で、当時の楽器と当時のオーケストラ編成の小人数での演奏。現代の、弦が肥大化したオケと違い、木管金管が前面に出てくるので、現代のオケに慣れた耳には実に新鮮である。
また全体にテンポは速めなのだが、特にアダージョは単純比較でフルトヴェングラーバイロイトの2倍の速さである。ご存知の方もいるかもしれないが、このアダージョベートーヴェンの速度指示があまりにも速いために、当時のメトロノームの性能の不備のせい、とか、ベートーヴェンが間違えたのだろう、ということで、誰もがゆっくり目に演奏する。
しかし、ベートーヴェンの指示にかなり近い速度のこの演奏を聴いても、実はあまり違和感は無い。アンダンテに近いかなり躍動的な音楽で、これはこれで充分魅力的である。
フィナーレも速めのテンポだが、トルコ行進曲以降はかなり遅め。そもそも行進曲が人が歩く速さで演奏されるものとすれば実はこのテンポのほうが理にかなっている。
第9を1枚だけほしい人には勧められないし、常日頃聴くための第9の演奏とは言いがたいが、時折、当時はこうであったであろう響きを耳にするのは有意義な事だと思う。第9好きの人は一聴の価値あり。