狂乱廿四孝(1995)

北森鴻
北森鴻の長編デビュー作である。デビュー作でこういう舞台を選ぶところが、もう只者ではないし、私とはやはり縁があったのだとしか言いようが無い。
三代目澤村田之助といえば、歌舞伎をかじったことがある人は多分皆知っているであろう幕末期から明治にかけての歌舞伎役者女形で、十代で立女形になるも、脱疽により足から順次、最終的に四肢切断という状態になりながらも舞台にあがり続けたが30代半ばにして夭折した悲劇の名優である。(ただし、くせの多い人物だったらしく、周りの俳優からの人間性の評判は必ずしも良くない)
若い頃、何かの本でこの人の四肢切断後の芝居絵を見た記憶がある。明けた窓から半身のみが見える図で、舞台にかける執念と、また、それで芝居を成り立たせる才能、そしてそれで成り立ったという当時の人気にも驚いたものだ。(今回ネットで探したが見つからなかった)
物語は、風俗は江戸のままの明治初期、業病の田之助を必死に守り立てる芝居の世界を舞台に、ある幽霊画をめぐって起こる連続殺人事件である。
読みやすい語り口、数多く登場する実在の人物をはじめ各キャラが立っていること、歌舞伎、浮世絵、江戸から明治への世相の変化等々、作品を彩るコンテンツが盛りだくさんで、興味深く楽しめる。
が、どんでん返しはドラマティックなものの、どこかで読んだ感想だが、牽強付会の感あり。
しかし、それでこの作品の価値が下がるわけではない。なぜなら、盛り込んだコンテンツが、ここまで魅力的でしっかりとしている時代ミステリーは、そうそうないからだ。