ワーグナー「ワルキューレ」

ラインスドルフ指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団(1941)
アストリッド・ヴァルナイは、ワルキューレでジークリンデを歌うはずだったロッテ・レーマンが急病のため、リハーサルなしで代役で歌い、一夜にしてスターになった、という話がある。このアルバムは、まさにその時の演奏記録である。こんなものが残っているのだ。彼女は後に押しも押されぬブリュンヒルデ歌手になるのだが、当初はジークリンデのほうが持ち役であった。何にせよ歴史的な記録である。
とりあえず、第1幕を聴くが、若き日のヴァルナイの声は圧倒的だ。
テノールのラウリッツ・メルヒオールは、当時の名テノールであるが、歌い方がどこかで聴いた事があると思っら、アナログ時代に聴いた藤原義江であった。これが当時のテノールの歌い方だったのだなあ、とわかる。 (藤原義江のほうが8歳年下)
正直言って、好みの歌い方では無いのだが、父親のヴェルゼ(実はヴォータン)の名を絶唱する、どんなテノールでも多かれ少なかれ音を伸ばし、その度に「おお!すごい」と思う箇所があるのだが、メルヒオールは、夜が明けるんじゃないか、と思うぐらい長く伸ばす。さすがにこれはびっくりした。
ラインスドルフは、今回初めて聴くが、テンポが速い部分が、かなりせわしなくなってしまっているのが惜しい。よく言えばドラマティックなのだろうが。
余談であるが、第2次世界大戦にアメリカが参戦したのがこの1941年であるが、その後もメトではワーグナーが上演されている。敵国であるドイツのオペラを上演するってことは、芸術と戦争は別物だとアメリカ人は考えていたんだろうか。でもおかげで、こういう録音も残せたのだ。