ギービヒ家の三兄妹の謎

「神々の黄昏」には、ジークフリートブリュンヒルデに加えて、ギービヒ家の三兄妹が登場する。
当主グンター、異父兄弟の弟ハーゲン、妹グートルーネで、グンターとグートルーネが同父兄妹である。

ハーゲンは「ラインの黄金」でヴォータンに「指環」を強奪(この時点で、ジークフリートを経てブリュンヒルデの元にある)された小人アルベリヒが「指環奪還」のために、グンターとグートルーネの母グリームヒルト(グリムヒルデ)に産ませた子ということになっている。

そうなると、グリームヒルトは、
グンターの父との間にグンターを産み
アルベリヒとの間にハーゲンを産み
再び、グンターの父との間にグートルーネを産んだ
ことになる。

そうなると明らかに不倫だが、その不倫をグンターの父は許したのか?

台本には詳しい事は書かれていないので、ネット上でもいろいろな意見がある。

実は、ハーゲンが長男で、グリームヒルトの連れ子だった、という解釈。

これならば、実にすんなり行くので、ワーグナーもそういう風に明記しておいてくれれは苦労はなかったのだが。

台本上はグンターが「我々兄弟を産んだグリームヒルト」とあり、また後に敵対した時にハーゲンに向かって「小人の息子」とののしっているセリフがあるが、グンターとハーゲンの関係は、グンターのセリフ
「私は、長男の地位を得たが、知恵はお前が得た」
というセリフしかないはずだ。

なので、やはりグンターの方が年長ということになる。

日本では長男という言い方をするが、外国ではあまりそういった区別をつけなくて、単にブラザーとか言ったりするから、ここのセリフも、原語では違うのかもしれない、
もしくは、「長男」ではなく「後継ぎ」という言葉を「長男」と翻訳したのかもしれない、
もしそうなら、「後継ぎ」が二男と言う事もあり得る、と思って調べてみたら。

Erbt' ich Erstlingsart,
Weisheit ward dir allein

となっている。

この

Erstlingsart
 
が「長男」なのであろうが、古い言い回しなのか、翻訳ソフトでも、ネット検索でも、まったく意味がわからない言葉になっている。

(ドイツ語は、単語をくっつけてゆくというので、ばらして調べてみたら
 Erst 最初 ling 男性名詞 art 種類 とうことまではわかった)

この部分を英訳しているサイトを見つけたが
first-born
と、なっていた

これは「後継ぎ」どころではなく、まさに「最初に生れた」という意味である。

なので、やはりグンターが、最初に生れた「長男」であることに間違いは無い。

となると、次におさまりの好い解釈は

グンター、グートルーネ、ハーゲン の順に生れた。

つまり、グンターの父が亡くなった後、グリームヒルトがアルベリヒとの間にハーゲンを産んだ。アルベリヒは、その莫大な黄金を条件に、ハーゲンをギービヒ家に入れた。

となるが、芝居の全体の感じから、やはりグートルーネは末子のほうが納得しやすい。
 
もう一つの解釈は、ギービヒ家が金銭的に没落していたために、グンターの父はアルベリヒの黄金と引き換えに妻のグリームヒルトにアルベリヒの子を産ませた、というもの。
これも、なんか、現代人には納得しづらい。三兄妹も仲がいいし。
 
こんな解釈はどうだろう。
 
グンターの父は何らかの理由でグリームヒルトを離縁した。
別の女性を正妃に迎えたかったのか
グリームヒルトに問題があったのか。

グリームヒルトは、何としても正妃の座に返り咲きたかった。
なので、没落して金が喉から手が出るほど欲しがっているグンターの父を振り向かせるために、子供を産む条件でアルベリヒから黄金を得た。
 
連れ子のハーゲンをギービヒ家に入れる事を条件に、グンターの父にその黄金を差しだし復縁を持ちかける。
 
めでたくグリームヒルトはは正妃に返り咲き、グートルーネを産む。

しかし、アルベリヒの子供を産んでまで、没落したギービヒ家に戻りたかったのか、というと、ちょっと解釈としては弱いかもしれない。
勿論、没落してもギービヒ家は名家だったから、名誉が欲しかった、とか
グンターの父をそれほどまでに愛していた、とか
理由はつけられるかもしれないけれど。
(愛する人のもとに戻るために、他人の子を産むってのも無理があるなあ)

ハーゲンとアルベリヒの対話で、ハーゲンが
「母はお前のたくらみに負けたのだ」
とある。
 
となると、グリームヒルトは、ある意味だまされた、ということになる。
そうなると、ますますわからなくなってくるなあ。
 
待てよ、俺がお前にやる黄金で、ギービヒ家へ戻れるぞ、と誘惑したってことかな。
ハーゲンを産むことは、当初のグリームヒルトの念頭に無かった可能性もあるな。

あれ、そうなったら、別に離縁されてなくても「ギービヒ家を救うために、黄金をやろう」とグリームヒルトを誘惑したって解釈もなりたつな。
グリームヒルトは、グンターの父に事後報告し、グンターの父は莫大な黄金を目の前にして、グリームヒルトの不倫を責める事ができなかった・・・・・うん、これもある。

まあ、どちらにしても、どの解釈も想像の域を出ないのだった(笑)