漫画版「ニーベルングの指環」

以前、あずみ椋版、里中満智子版の内容について触れたことがあったが(こちら)また、いくつか気付いた事がある。
ブリュンヒルデと愛を誓ったはずのジークフリートが、ハーゲンの奸計により「忘却薬+惚薬」により、ブリュンヒルデを忘れ、ギービヒ家のグートルーネと結婚しようとするのだが、ブリュンヒルデは勿論その事を知らないのでジークフリートが裏切ったと思い、ハーゲンにジークフリートの弱点を教えてしまう。
ハーゲンがジークフリートを殺した後に、ブリュンヒルデはハーゲンの奸計を知るのだが、どうやって知ったかと言うと、台本上はグートルーネが早朝にライン川へ行くブリュンヒルデを目撃しており、ブリュンヒルデは(指環の元々の持ち主である)ラインの三乙女からハーゲンの奸計を知ったのだという事が暗示されている。
ここをちゃんと描いているのがあずみ椋版で、里中満智子版では、登場人物のやりとりから、なんとなくブリュンヒルデが悟ったという事になっている。
ここはあずみ椋版に軍配を上げる。

しかし、ラストの「ブリュンヒルデの自己犠牲」は、以前にも書いたが、ブリュンヒルデは愛馬にまたがり火の中に飛び込む事になっている。これをこの通り書いたのが里中満智子版である。
しかし、実際の舞台上では、そんな事は再現できないので、そのまま火の中におどり込むあずみ椋版も、あながち間違ってはいないともいえるが。

ちなみに、ジークフリートが隠れ頭巾でギービヒ家の当主、グンターに変身して岩の上のブリュンヒルデに会いに行った晩、二人は同衾したはずだ、だからジークフリートは嘘つきの強姦犯である、というネット上の意見がある。
それは、そのあと元の姿に戻ったジークフリートの指に、ブリュンヒルデから奪った指環がある事をブリュンヒルデが見とがめた時に、ジークフリートは父の形見の剣、ノートゥングが二人の間を隔てていた、と言い、ブリュンヒルデは、ノートゥングは鞘におさまっていた、と言ったところからきている。
しかし、ジークフリートは、グンターに変身した時の事を語っているのに、ブリュンヒルデは(「ジークフリート」最終幕で)二人が最初に出会った夜の事を語っているのだ。だから、二人の話は、噛み合っていないのだ。
ここを勘違いして、ブリュンヒルデジークフリートがグンターに変身した時の事を語っている、と解釈してしまうと、どうしても、同衾した、と言う事になってしまうのだが、上記で書いたとおり、グンターに変身したジークフリートブリュンヒルデに(指環を奪う時以外は)指一本触れていないので、嘘つきの強姦犯ではないのであった。