ヴェルディ「アッティラ」からいろいろな話

アッティラ率いるフン族のゲルマン侵攻により、ゲルマン民族大移動が起こり西ローマ帝国が滅んだ、というのは歴史の授業でも習うことではあるが、このアッティラは「ニーベルンゲンの歌」にも重要人物として顔を出すし、(ローマの陰謀で)フン族に滅ぼされるブルグント王国は「ニーベルンゲンの歌」や「神々の黄昏」の舞台でもある。また、ヨーロッパではチンギス・ハーンと並んで恐れられ語り継がれた存在で、モンティ・パイソンのネタにも出てくるぐらい有名である。
ならば、オペラのひとつもあってしかるべきと、思いついてもよかったのに、今の今までそんなオペラがある事を想像さえもしなかった(汗)
ヴェルディの有名作品の中では「エルナーニ」と「マクベス」の間に当たる作品で、現在ではヴェルディの初期の傑作と言われているようだ。CDもDVDもある。私がオペラとか聴き始めた頃はあったのかなあ。あ、シノーポリの出世作が1980年録音のこのオペラらしいから、あったのか・・・・
さて、実際のアッティラはイルディコというゴート族の娘との結婚披露宴の後に変死しているのだが、それが吟遊詩人達のかっこうの材料となり、花嫁が一族の仇打ちとしてアッティラを殺したという物語が作られ「ニーベルンゲンの歌」後編の遠い祖先となった。
こちらのオペラもやはり捕虜から花嫁にされようとしていたイタリア女性に殺される話なので、根っこは一緒と思われる(原作はヴェルナーの戯曲「フン族の王アッティラ」)
ここで思う事は、悪役であるアッティラが、歴史上の記憶では残虐な侵略者として恐怖の対象となっているわりには、そんなに悪人としてはえがかれていない点で、ローマからの使者(将軍の一人)が、イタリアを自分に支配させる条件でローマへの侵攻を手引きしようという申込を裏切りだとして決然とはねのけるあたり、けっこうりっぱな人間としてえがかれている。
ニーベルンゲンの歌」後編でも、慈悲深い立派な王様である。
ここらへんヨーロッパの懐のふかさなのか、対立する方を貶めるために逆にアッティラの方を持ちあげているのか・・・・いろいろと興味が尽きない話だ。
ちなみに裏切り者と言われる使者エツィオは、本当は裏切り者ではなく、裏切り者の汚名を着ながらも。そういう提案をすることによりイタリアを戦火から救うつもりだった。という解釈もあるようで「全世界はおまえ(アッティラ)が手に入れるがいい、しかしイタリアはわが手に」というセリフで、当時のイタリアの聴衆が大喝采した(全世界と比肩するイタリアという事)というから、捉え方はいろいろあるものだ。
ちなみにこのエツィオ(アエティウス)がブルグント王国滅亡の黒幕だ!彼は後に、皇帝が自分の地位を脅かされると思ったため、暗殺されてしまう。ヘンデルグルックが彼の生涯をオペラにしている。

サミュエル・レイミー演じるアッティラ。この人は元から目が細いから合ってるな。

ずいぶん変わった演出のヘンデルのエツィオ

グルックのエツィオは舞台映像が見つからなかったのでガラ映像。