ケルトとローマの息子(1955)

ローズマリー・サトクリフ
この作品は、いわゆる「ローマン・ブリテン4部作」や「アイクラ家のイルカの指輪シリーズ」ではないものの「第九軍団のワシ」(1954)の直後に書かれており、また時系列的にも「第九軍団のワシ」の後と思われる事から、もしかしたらサトクリフは、イルカの指環のつながりを意識せずに、こちらの作品を「第九軍団のワシ」の続編と考えていたかもしれない。
難破したローマ船のただ一人の生き残りの赤ん坊がケルト戦士として育てられるが、村の疫病の責を、その血筋を神が怒っているのだとして、一身に背負わされ、村を追放される。そしてローマ人の町に着いたとたんに騙されてローマ本国へ奴隷として売られてしまう。
運命に翻弄され、主人公が次々と過酷な目に会うのに、ちょっと引いてしまったのだが、よく考えると、これは当時のローマ社会の様子を隅々まで描写するため、主人公を狂言回しにしているのでは、と思いついた。
しかし、漕ぎ手の奴隷として乗り込んでいるガレー船から、半死半生で海へ放り込まれ、やっと自由への道を歩み始めるまで3分の2もかかっている。その後は、徐々に暖かい話が展開するが、それまでがつらすぎる。
「ケルトとローマの息子」というタイトルに惹かれて読んだのだが、これは別にケルトである必要はあったか。よく見たら原題は"outcast"つまり「追放者」である。「ケルト」ってつけないと売れないとふんだか?どっちにしても岩波が版権を取得しなかったのは正解か?あまり少年少女には勧められないなあ。