シールド・リング ヴァイキングの心の砦(1956)

ローズマリー・サトクリフ
(震災前に書いてあった記事)
実は「アイクラ家のイルカの指輪シリーズ」は「剣の歌」(1997)で終わりにしようかと思っていたのだが「剣の歌」が良かったので、時系列的には最終作のこの作品も読んでしまう。
時系列的には最終作だが、執筆は「第九軍団のワシ」(1954)「ケルトとローマの息子」(1955)の後、「銀の枝」(1957)の前にあたり、ここで初めて明かに「イルカの指輪」がサトクリフの中で意識されたと思われる。(主人公が、指環の元の持ち主である「第九軍団のワシ」の主人公に思いをはせる場面がある)
時はフランスのノルマン公ウィリアムによるブリテン征服の時代。
ブリテン北部に住むヴァイキングは、かつては侵略者だったが、今やノルマン軍による侵略を受ける立場にある。かつてのケルトとローマ、ブリテンとサクソン、そしてブリテンとヴァイキングの関係が、立場を替えて引き継がれている。
主人公は戦士であると同時に芸術家である。竪琴の才能を持ち、歌を作って吟じる。脇役に芸術家は登場しても、主人公が芸術家の才能をもっているパターンはサトクリフの作品には意外に少ない。「ケルトの白馬」ぐらいではないか。
そのせいなのかどうなのか、非常に叙情性に富んでいて、前後の作品とはだいぶ雰囲気が違う。少年少女が主人公とは言え、もしかしたら、もっと上の世代向けの作品なのかもしれない。(その幼くもけなげな愛も好ましい)
もしかしたら「ケルトの白馬」に次いで、気に入ったかもしれない。