風の陣 裂心篇

風の陣 裂心篇(文庫化 2012)
高橋克彦
油断をしていたら、高橋克彦さんの作品がけっこう文庫化されていた(その5)
最終巻の裂心篇は、シリーズ終わりにしては最後が・・・・というネット上の意見があるが、以前にも書いたし、ファンならとっくにご存じだが、この話は直接「火怨」につながる。「火怨」の冒頭とほぼ同じ記述が何箇所かあらわれるのが実にうれしい。つまりは、完結編と言いながら、完結編では無いのだから、この終わり方でいいのである。
それなら、完結はどこか・・・蝦夷の歴史に完結は無い。(なんじゃそりゃ)
本編の主人公鮮麻呂は、史実上は鮮麻呂の乱のあと行方不明であるが、この作品では、側近の猛比古に、都や陸奥で自分が元気でいることを吹聴するように命じて、自らは命を絶つ事が示唆されて話が終わる。自分が捕縛されては、続く蝦夷たちの心がくじける。死んでしまえば捕まりようが無い、つまりは味方にも秘密にしなければならない。
そして「火怨」では、その猛比古が阿弖流爲に合流した時に、鮮麻呂が無事である事を明るく語るシーンがある。ここは猛比古が心の血の涙を隠して明るくふるまうという壮絶な構図となる。
「火怨」は10年以上も前の作品であるが、その時、風の陣のラストで鮮麻呂が自ら命を絶つことを念頭に置いていたのだろうか。もしそうでなくても「火怨」の記述を逆手にとって、この効果を狙った可能性は充分ある。

ちなみに「火怨」と「炎立つ」の間は200数十年の開きがある。蝦夷の歴史も、中央と関わった時のみ残されているだろうから、この間の蝦夷の歴史を埋める小説は難しいだろうが、高橋さん、なんとかやってくれないだろうか。そうして、出来ればその後の「天を衝く」との400年の隙間も・・・