中津文彦「政宗の天下」

政宗の天下(1996~1997)
中津文彦
若い頃、さかんに歴史ミステリーを読んでいた時期があったが、中津さんの作品は他の作家にくらべて地味で面白味が少ない、という印象があった。いわゆるミステリーにつきものの、名探偵役が快刀乱麻のごとき名推理を見せる、という作品が無いせいもあると思う。
しかし、年を取って改めて以前よんだものを含めて中津作品を読んでゆくと、年を取ったせいか、細かい調査を基にした綿密な物語作りの深みというものを感じるようになってきた。
この小説は「義経の征旗(旧題:秀衡の征旗)」と同様のいわゆるシミュレーション小説で、関ヶ原の合戦伊達政宗上杉景勝と連合を組んで南下し、家康を滅ぼして天下を握る話である。
高橋克彦さんの言に「東北は負けっぱなし、アテルイ、平泉、九戸政実、明治維新」というのがあるが、「政宗の天下」は「義経の征旗」と共にそんな東北人の溜飲を下げてくれる作品ではある。
しかし、家康を滅ぼしたから天下を取りました、といった的な簡単な問題ではない。家康を滅ぼした後も問題は山積している。そこらへんを、中津さんは丁寧に読者が納得できる形で政宗に解決させてゆくのだが、そこらへんが実に読み応え満点である。
ちなみに、高橋克彦さんは「炎立つ」において、平泉の政治の仕組みを頼朝に踏襲させるように泰衡が仕組むことにより、結果的に蝦夷の勝利を描いた作品であった。