北村薫「夜の蝉」「秋の花」

北村薫「夜の蝉」(1990)
「円紫さんと私シリーズ」第2作は3編の中編を収録。相変わらずストーリーがあるような無いような、たんたんとした物語が、最後には実はすべてが伏線であるとわかる瞬間の醍醐味はこの上ない。
(この作品だけ読むにはなんの問題も無いが、ほのかに第1作の伏線が第2作で解決したりする)
さらに本作では「私」の人間関係が深くえぐられ、その内容と前述の「謎」が「私」のゆっくりとした成長物語を紡ぎだしている、というシリーズとしてのうまさにもうならせられる。

北村薫「秋の花」(1991)
「円紫さんと私シリーズ」第3作は、第1作が短編集、第2作が中編集ときて、満を持しての(というか北村さんの綿密な計算通りであろう)長編の登場である。
小中高を通しての「私」の3年後輩の仲良しコンビの女性の片割れが、高校の屋上から謎の転落死をとげる。そして、その「謎」が今、ゆっくりと蠢きだす・・・といったところか。「殺人無き本格派」である当シリーズ(だからといって「謎」の内容が軽いわけではないが)が、初めて「死」が登場する。
さて、作中で「私」が卒論のテーマを「芥川」にする決心をしているが、既にこの時点であの「六の宮の姫君」が書かれることが決まっていた、というこのなのだな。