"Getaway" "Room Service" FROM "Dressed to Kill" (1975)

KISS
「地獄への接吻」"Dressed to Kill" (1975)は、キッスの3枚目のアルバムであり、日本でのデビューアルバムである。(高校1年のときにリアルタイムで購入した)
前々からこのアルバムを聴くたびにつらつら思うことがあったのだが、文章にまとめずにここまできたので、そろそろ書いてみようと思う。
記憶が正しければ、このアルバムは1st、2ndと泣かず飛ばずだったキッスが、とにかく新しいアルバムをというカサブランカ・レーベルの要請の元、スタジオで四苦八苦して搾り出した曲で構成されたアルバムで、ポールとジーンの以前のバンド"WICKED LESTER"時代の"She"まで担ぎ出してなんとか完成させたアルバムであるが、四苦八苦して搾り出しただけあって、曲自体のできはすこぶるいい。
次の大ヒットアルバム「地獄の軍団」"Destroyer"(1976)と出来だけを比べれは遜色無い(というか「地獄への接吻」の曲の発展形の曲があったりする)どうしても、プロデューサーのボブ・エズリンのダイナミックな音作りで「地獄の軍団」のほうが目立つのであるが。
何よりもシンプルなロックンロールをマンネリ化させないようにという工夫が随所に見られるところがツボで、上記に掲げた"Getaway" "Room Service"はそこらへんが顕著である。
具体的に言えば転調の妙と、ベース・フレーズの工夫である。
"Getaway"ではまず、通常よりオクターブ上の長調のロックンロールのリフのフレーズを弾き、次は同じコードなのに、オクターブ下で短調のヘビメタ調のリフのフレーズを弾いてアクセントをつける。そしてサビの転調、ギターソロの転調、そして元の調性に戻ったときのカタルシスの醍醐味!
"Room Service"も同様で、ロックンロールのリフしか使用していないにもかかわらず、単調にならないように実に工夫されていて、ベースだけ聴いていると実にほれぼれする。ジーン・シモンズのベース・センスが実にすばらしいということがわかる。
勿論(極端な話)ジャコパスのように弾けといわれても彼は弾けないだろうし、勿論弾く気も無いであろう。
どこかで読んだが、ミュージシャン志望の若者に対し、「必要以上に楽器がうまくなって、玄人だけにほめられていい気になるより、まずヒット曲を1曲でも書け!」と言い放った男である(また、これも一理あるのだが)そう意味では、彼のベース・センスは、必要かつ充分な天才的センスといえる。

奇しくも、"Getaway"はシングル「ロックン・ロール・オール・ナイト」"Rock and Roll All Nite"の、 "Room Service"は「激しい愛を」"C'mon and Love Me"のB面だったというのも、やはり目立たぬながらも彼らにとっては自信作だった証拠かもしれない。

ちなみに突然気がついたが、"Getaway"のベースの工夫って「ドント・ストップ・ザ・ミュージック」といっしょだ!うーん、多分当時からこの工夫をどこかでやってやろうと思っていたのだろうな。