モーツァルト 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」

フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団(1958)
先日、「協奏曲やオペラは指揮者が良くても演奏者がだめだったり」といったことを書いたが、その典型に出会ってしまった。フリッチャイの指揮ぶりは相変わらず端正で真摯で、バランスや木管の使い方は絶妙である。フルトヴェングラーに慣れた耳には若干早いと感じる点もあるが、たぶん通常のモーツアルトの速度であろう。
歌手陣は男性がいけない。下手なのではない。ドン・ジョヴァンニ、レポレロ(従者)騎士長(ドン・ジョヴァンニに冒頭殺され、最後に彼を地獄に引き込む)3人が3人とも品の無い小悪党にしか聴こえない。フルトヴェングラー盤は、罪を罪とも思わない悪なのだがそれが逆に貴族的なおおらかさになっているドン・ジョヴァンニチェーザレ・シエピ)朴訥な中に品性を失わないユーモラスさのあったレポレロ(オットー・エーデルマン:この人はバイロイトの第9でバリトンソロをとっている)どこまでも荘厳、峻厳な騎士長(ラファエル・アリエ)と、やはり役柄に合った配役をすべきだし、歌唱をするべきだ。やはりフルトヴェングラーザルツブルク音楽祭のライブ(1953)は、映像(1954)とともに歌手があまりにも素晴らしく、私にとって未だにこれを超えるものは無い。もちろん最右翼の演奏であり、モーツァルトの本質からは離れているかもしれない。
なので、そういう演奏がだめな方にはクリップス指揮(1955)をお勧め。主役とドン・オッタービオがフルトヴェングラーと同じ、シエピとデルモータ、他の歌手も遜色なく、ウィーンフィルの雅な演奏で楽しめる。