モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」K.492 カール・ベーム指揮 ウィーン国立歌劇場日本公演 1980年

文句ではないが、気になる部分もある。最終幕で暗闇の中、伯爵がケルビーノを殴る時に、様子を見に出てきたフィガロを替わりに殴ってしまうシーンがある。台本はこのように書いてあるのだが、舞台上でこれを自然に実現するのはなかなか難しく、演出家はいろいろ工夫をこらす。今回の演出は、伯爵がケルビーノを突き飛ばし、ケルビーノがフィガロにぶつかるという演出にしていた(ようだ)が、肝心のフィガロとケルビーノの激突がカメラから外れてしまったので、万が一フィガロの内容も全く知らない人が初めて見た場合は、何がなんだかわからないかもしれない。ので、一応こういうことが行われていたのだ、という解説をさせていただいた。

私が好きなシーン(もちろんいっぱいあるのだが)の一つに、最終幕で伯爵夫人に扮したスザンナにフィガロが求愛(する振りを)するシーンがある。影で伯爵が見ているのを見越しての芝居なわけだが、フレーズがいかにも大げさな求愛メロディで、笑いをさそう。(しかしけっして安っぽくない名フレーズである)これが、それまでの音楽の流れを全く崩さずというか、それまでの音楽のクライマックスのようにぴったりとはまり込んでいる。本当に天才と言うのは恐ろしいものだと思う。