ドロシー・L・セイヤーズ
さて、これは、初期の軽妙洒脱な世界への先祖がえりの趣き、しかし主人公は成長したピーター卿という趣向。元々「探偵コメディ」としてかかれた戯曲だから「学寮祭の夜」ほど重たくは無いが(エピローグは別)作品的には円熟の境地。舞台での上演を想定しているため、視覚的効果を狙ったトリックも楽しい(不謹慎)これが映画化されたという話を書いたが、うなづける話。しかし、このまま同傾向のシリーズを続けることも可能だったろうが、実はセイヤーズは作品ごとに趣向を変えたり、新しいことに常にチャレンジしてきた人だから、それに甘んじることは良しとしなかったのだろう。「ナイン・テイラーズ」「学寮祭の夜」そしてこの作品は、もう一種の完成の域なので、次作を書き始めたものの、もうこれ以上の作品は・・・・と思ったのかもしれない。それで潔く、かねてからの希望だった文学研究への道を歩んだのだろう。でもその未完の翻訳を読んでみないことには、なんともいえないな。
とにかくピーター卿の長編はこれで終わり。第2短編集(日本編集)とアンソロジーに収録された短編、唯一のピーター卿シリーズではない長編を読んだら、セイヤーズともお別れだ。あとはP・D・ジェイムズ再挑戦だな。