ヴェルディ「ファルスタッフ」について

そもそも私はオペラが好きといっても、どちらかとうと喜劇が好きである。しかし実は「喜劇は悲劇より難しい」とは、俳優、演出家をはじめ演劇関係者でもよく言われることであるが、オペラでも同様で、オペラの喜劇の傑作は悲劇ほどは多くない。ワーグナーも喜劇は1つだし、ヴェルディも事実上この「ファルスタッフ」1つといって過言ではない。(手元にあるオペラ紹介の本には約170のオペラが紹介されているが、喜劇は一割強である)
しかしこの作品のなんと見事な事か。80歳の彼が、それまでの自身の音楽技術の粋を集めたといっていい出来栄えで、それまで、ワーグナーに対する対抗意識と影響から、いわゆる伝統的なイタリアの番号付きオペラを改革してきた彼の最終的な完成作と言える。美しいメロディ、喜劇的内容にあった音楽展開、(いわゆるどんぶりまである)重唱の複雑な絡み、最後はなんとフーガで締めくくられる。