時の果実

モンゴメリ
「時の扉の向こうには」の続編である。
「あのひとの夢のために」という作品がある。
念願の女性にプロポーズした男性が条件付で承諾を得る。その条件とは16年前に別れその後西部で事故死した元の彼氏への思いは無くせないということ。当時彼女の父の反対で無理やり別れさせられたとの事。
そしてその後、その彼が村では見かけない男と道で行き交う。話を聴いてみるとどうも死んだとされていた彼女の元の彼が、ちょっとしたついでにふらりと懐かしくなって寄ったらしい。しかしあまりにも粗野だし、既に妻子もあり、昔の彼女との事も本気では無かったようだ。彼女の家へ寄ってみようかなという彼に、主人公の男性は悩んだ末「留守のようだ」と嘘を言い、件の彼氏はそのまま帰ってしまう。主人公が「これで、あのひとの夢を壊さずにすんだ」と思ったところでおしまい。
大変に短い作品で、あれ、もう終わってしまうの?と最初は思った。例えば彼女がその様子を陰から見ていた、なんてことにしてその後ドラマチックな展開があるのかと思ったからだ。
しかし、その後じわじわと後味が湧いてきた。つまり主人公は、彼女を彼に会わせて幻想を打ち砕き、心をすべて自分に向けさせることよりも、彼女の記憶の中の美化された過去の彼氏と、今後一生戦い続けなければならなくなるのかもしれない道を選んだということだ。それをよしとした上での上記の行動であったわけだ。珍しく1935年の作品(ほとんどのアンシリーズを書き上げた後)で、さすがに深いなと思った。