ワーグナー トリスタンとイゾルデ

クライバー指揮ドレスデン国立管弦楽団(1982)
エディット・マティス ルネ・コロ クルト・モル ブリギッテ・ファースベンダー フィッシャー・ディースカウ
私の記憶が正しければ、この盤が出た当初は、主役のプライス、コロ共に疑問視する声があった。つまりはワーグナーらしくないと言うわけだ。プライスはやはりモーツァルトのイメージが強かったし、コロもワーグナーを歌ってはいたが、リリコに近い声である。
そもそもレパートリーを(たぶんわざと)狭くしているクライバーだが、ワーグナーはこれ1曲である。つまりは、彼の表現したい音楽を実現できるワーグナーが「トリスタン〜」のみであった、ということに他ならない。ワーグナーが先ではなく、彼の表現が先なのだ。
そして彼の表現したい音楽としての「トリスタン〜」を作るために必要だったのが、このある意味非ワーグナー的な二人の主役だったわけだ。なので、クライバー主体とするならこの配役はベストなのだ。
思うに、彼はワーグナー的泥々とした愛欲世界には興味が無かったのだろう。そういう「トリスタン〜」なのだ、と納得して聴く分には最高の演奏である。何しろ、このスピード感と美しさでワーグナーを成り立たせるのは、クライバー以外にはできない技で、まさに唯一無二の「トリスタン〜」と言える。
あと、以前書いた(こちら)アントン・デルモータが嬉しい。
さて、これでフルトヴェングラー、クナの「トリスタン〜」も新たな気持ちで挑戦できるぞ。