劇場の迷子(中村雅楽探偵全集4)

戸板康二
全5巻のうち、第5巻は長編2作を収めているので、この巻が短編集としては最後の巻になる。1991年までの作品を収録。
最初は分厚い文庫なので、最後まで読みきれるかなとも思ったのだが、今は「もうこれで最後か・・・・」と寂しい気分。
ミステリーとは言えない作品も混じっているが、もうすっかり雅楽の世界に浸りきっているので全く気にならない。
さすがに、雅楽も語り手の竹野記者も年をとり、過去の思い出の事件も多く語られるが、それを逆手にとって、若い女性が自分の祖母の過去をさぐるのを手助けする、いわゆるクリスティでいうところの過去犯罪もの的な作品も見られて楽しめる。
また、若くして亡き父の名跡を継いだが、勘平(忠臣蔵)という大役に自信が持てない若い役者に、雅楽やる気を出させる話があるが、その方法が実に絶妙で、これもミステリーの一種とうならせられる。
最終作は、その昔雅楽がわけあって破門した元弟子の息子を、新たに弟子として迎え入れるという、まだまだ雅楽も老け込むわけにはいかないという、最後をかざるにふさわしい希望に満ちた人情物である。
また、例の「團十郎切腹事件」でも披露した、ベッド・ディテクティブ6作「演劇史異聞」もうれしい。
現在、雅楽物以外で、入手可能な他の文庫も、なんとか入手済みなのだが、まだまだ未収録の作品があるようだ。ここまでがんばったのだから、東京創元社はなんとか戸板康二作品すべての出版を成し遂げて欲しい。