プッチーニ「トゥーランドット」について

「このオペラは好きか?」と尋ねられたら素直に「好きだ」と言い切れない。
勿論「誰も寝てはならぬ」など、多分テノールのオペラ・アリアの中で一番好きだと思うし、圧倒的に魅力的な音楽に満ちていることは事実である。
しかし、前にも書いたとおりに、なんかストーリー的に納得がいかない。
補作によるエンディングもなんかお祭り騒ぎでいやだ。
ある人が「トゥーランドットは(中略)「男のロマン」そのもの(中略)男が泣けるオペラ」と書いているのをみて、ちょっと唖然、男のロマンってそんなに俗っぽくて安いのか?
中身ではなく、姿形に惚れて命をかけるのが「男のロマン」だって言われれば、はいはいそうですか、ってなってしまうんだけれど。
で、「トゥーランドット」が心を開くきっかけが、カラフの召使の女性リューの自殺なんだが、これもよくわからない。
ええと、あらすじがないとわけがわからんでしょうから、あらためてあらすじを書くと。
時代不明の北京では、王女トゥーランドットが、求婚者に3つの謎を提示し、解けないものは死刑に処していた。
そこへある国を追われた王と王子カラフ、召使のリューがやってきて、たちまちカラフはトゥーランドットに恋をして、求婚をする。
カラフはトゥーランドットの出す謎を全て解くがトゥーランドットは結婚を渋る。
カラフは逆に明日の夜明けまでに、あなたが私の名を知ることができたら死刑になってもかまわないが、知ることができなかったら今度こそ結婚するようにと提案すると、トゥーランドットはそれを了承。
翌朝、トゥーランドットはリューを捉え、拷問によってカラフの名を白状するよう責めるが、リューは「これが王子に対する私の愛の証」と兵の剣を奪って自殺。
(ここまでがプッチーニの書いた部分)
そして、あらためてカラフがトゥーランドットを口説くと、リューの死に打たれた彼女はなぜかカラフを受け入れる。めでたしめでたし・・・・ってどこが????
このあと、豪華絢爛な愛の賛歌でオペラは終わる・・・・って何で?
先ほどの方は、このエンディングがえらくお気に入りのようで、「すばらしいフィナーレを完成させてくれたアルファーノ(補作した作曲家)に大感謝」なのだそうだが、プッチーニが残したスケッチはエンディングがピアニッシモであることを知っているんだろうか。
プッチーニがどうしても「リューの死」以降が書けなかった理由が私はわかる気がする。
だって、こんなの普通の神経の持ち主ならわけがわからんもん。なんでリューは死ななければならないのか。なんで、リューが死んでも、カラフとトゥーランドットはへらへら幸せになる気になるのか。こんな顔めあてのカラフなど、すぐ浮気に走って破局するに決まってらい・・・・とは、さすがに言いすぎだが(笑)
(ちなみにプッチーニは実生活で、不倫を疑われた召使が自殺している)
だもんで、このオペラはエンディングだけがどうしてもそらぞらしくで苦手である。
試してないがトスカニーニの初演のように「リューの死」までで、聴くのをやめてみようかな(笑)
ちなみに「誰も寝てはならぬ」の和声は通常のドミソではなく、ドレファソのように重ねられている。これは実は邦楽の和声である。ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」の影響というが、そもそもドビュッシーが東洋音楽の影響をうけているのだった。
さらにちなみに、アルファーノのお祭り騒ぎでないエンディングのベリオ補筆版というのがあるようだ。DVDも出ているが演出がきつそうだ。ラストだけ聴きたいと思ったら、ラストだけのもあるらしい。よし!(笑)