お富さん

春日八郎
歌舞伎ということで、また思い出したのだが、ある程度の年齢の方は、たぶん誰でも知っている曲で、私も子供の頃は意味がわからなくても、覚えやすいメロディと調子のいい歌詞で、よく口ずさんでいたものだ。
で、以前こんなことをかいたのだが(こちら)この歌詞

粋な黒塀 見越しの松に 仇な姿の洗い髪
死んだ筈だよ お富さん
生きていたとは お釈迦さまでも
知らぬ仏の お富さん
エーサオー 源氏店(げんやだな)

を、まあ勝手に解説をしてしまう(笑)

上記の情景にいたるまでの「切られ与三」の簡単なストーリー
大店の若旦那与三郎の恋の相手お富、実はやくざの大親分の妾、与三郎は子分たちに滅多切りにあい海へ放りこまれるも一命をとりとめ、体中についた刀傷を売りに無頼の徒へ転進。
小金のありそうな家へゆすりに入ったところ、そこにいたのは、別の旦那の妾になっていたお富だった。

「源氏店(げんやだな)」は、モデルが実在した玄治店で、今で言うところの高級アパート街。店(たな)はお店ではなく借家、長屋に住んでいる人を店子(たなこ)というのを落語かなんかで聞いた事があるかもしれない。
「粋な黒塀」は、そういう高級住宅で、金持ちに囲われている妾の家の塀が黒く塗られていたところからきている。なので、与三は小金があると踏んでゆすりに入ったわけだ。
「仇な姿の洗い髪」仇はいわゆる「かたき」ではなく「刹那的」「一夜限り」の意味合いから、商売女、玄人女、そして「すれた」等へ派生してゆく。
ここでは、いかにも玄人女風な風情で、庭で髪を洗っているということ。
つまり、「妾街(黒塀)に来たところ、松が塀越しに見え、玄人女風な風情で髪を洗っている女性を庭にみかけたので、これはいい鴨になる、とゆすりに入りました」となる。