「闇の左手」(1969)

アーシュラ・K・ル・グウィン
久々に読み返して思うことは、「幻影の都市」(1967)から2年で、彼女のSF作家としての腕が格段に上がっていたのだ、ということ。
うまくなった、というと語弊があるかもしれない。とにかくそれまでの作品に比べて読みやすい、わかりやすい、展開が読者を引き込む。(前作までが下手だったというよりは、読者に対する妥協が無かったというべきか)
だからといって、内容が浅くなったわけではない。彼女のそれまでのテーマ「異文化の描写とその異文化との相互理解の難しさ」「人間とは何か(こちら)」等々は、変わらぬどころかより深みを増している。
さすがにヒューゴー賞ネビュラ賞の長編部門(双方とも女性初)を獲得するだけのことはある。
かなり前に映画化の話があり、それが立ち消えになったようだが、はでなドンパチが無い分、CG満載の現在のSF映画の状況では映画化は(ファンが望んでも)可能性は薄いか。両性具有のゲセン人を、男女どちらが演じるかはわからないが、それらしく見せるためにモーフィング的な事をすれば、それが話題になるかもしれないが、今作品の本質はその奥にあるので、痛し痒しである。それでも、あえて深遠なテーマを前面に出した映画化を望みたいところ。
さて、いよいよ次は、やっと昨年再版されたために、長年の願いがかなって読むことができる「所有せざる人々」である。大長編かつ「闇の左手」以上の傑作とのことなので、心して読まねば。