イシ-北米最後の野生インディアン

シオドーラ・クローバー
ル=グウィンの「所有せざる人々」を読み始めたが、読み進むにつれ、こちらの方がどうしても気になってしまい、こちらを先に読むことにする(なぜ気になったか、と(読み始めたばかりなので)感想については追々書く)
以前、ル=グウィンについて「母親も作家でインディアンについて書いていたらしい」と書いた(こちら)が、この本のことである。
たまたま書店でみつけて、すかさず買ってしまった。
白人開拓者による虐殺で、壊滅寸前となったヤヒ族、逃れた十数人も数十年に及ぶ逃亡生活のうち、「イシ」一人となってしまった。
1911年「イシ」は白人の前に現れ、保護されて1916年に亡くなる。
その間、ル=グウィンの父、文化人類学者のクローバーが、彼を研究した。
以下、冒頭に収録された、ル=グウィンによる「再販によせて(1991)」より抜粋
「私の父で人類学者のアルフレッド・クローバーは、イシをもっとも親しく知っていた人物の一人であったけれど、イシの物語を執筆するのを望まなかった。その理由はよくは知らない。父が私たち子供にイシの物語をしたという記憶はない。イシのことを初めて耳にしたのは、両親が父の同僚で以前からイシについての資料を集めていたロバート・ハイツァーと伝記執筆の相談を始めた時だった。どうして父がイシのことを口にしたがらなかったか、私には想像がつくような気がする。
一番大きな理由は心の痛みであろう。1900年にカリフォルニアにやってきた父は、無数のインディアンの部族や個人が破滅させられ殺されるのを目撃せねばならなかったに違いない。カリフォルニア原住民の言語、暮らし方、知恵などについての情報を、大量殺戮が完了する以前に、少しでも多く蒐集するというのが、何年にもわたる父の仕事であり、このため父は殺戮の目撃者となったのだ。
ナチによるユダヤ人大量虐殺に等しいインディアン撲滅の生き残りであるイシは、父の親しい友人かつ教師となった。それなのにそれから僅か5年後に結核・・・・これまた白人からインディアンへの死の贈物である・・・・で死亡する。どれほどの悲しみや怒りや責任感に父は悩んでいたことだろう! イシの遺体を解剖するという話があった時、父が「科学研究のためとかいう話が出たら、科学なんか犬にでも食われろ、と私の代りに言ってやりなさい。われわれは自分らの友人の味方でありたいと思います」と記したことで、父の苦悩は理解できる。イシの死後40年経っても、イシの物語を語ろうとする試みるならば、あのやり場のない怒りがこみ上げてくる・・・・父はそのように信じていたのかも知れない。」
(この文を読むたびに泣けてしまう)


「イシ」とはクローバーがつけた名前(意味は"人")で本当の名前は最後まで明かされることは無かった。そう「ゲド戦記」の「真の名」である。




ちなみに手塚治虫が「原人イシの物語」(1975)として漫画化しているとか、上記のル=グウィンの父も登場するとか、よ、読みたい!
以下等に収録
講談社 手塚治虫漫画全集 タイガーブックス 2
集英社文庫 アポロの歌 2
秋田文庫 手塚治虫医療短編集
河出文庫 華麗なるロック・ホーム

さらにちなみに、アメリカで2回ドラマ化されていて(1978 1992)2つめ"The Last of His Tribe"(1992)はビデオ発売されているが、DVD発売は無いようだ。(日本版は無し)「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(1990)のグラハム・グリーンが主演である。「ダンス・ウィズ・ウルブズ」のヒットを受けて、ということかな。ともあれこれも見たいが字幕が無いのでは・・・・(涙)日本版出してくれ!

さらにさらにちなみに、1992年のドキュメント"Ishi: The Last Yahi"はDVD発売があるが日本版は無い。


さらにさらにさらにちなみに、児童向けに小説化された「イシ―二つの世界に生きたインディアンの物語」があり、これも読みたいがお高い(涙)

1992年のドラマ

1978年のドラマ(1から9まである)

1992年のドキュメントの予告編