言の葉の樹(2000)

アーシュラ・K・ル・グウィン
1974年の短編「革命前夜」を最後に中断されていた「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」であるが(その中断の時期は、ゲド戦記アースシーシリーズと共通する)1990年の短編「ショービーズ・ストーリイ」で再開され、(こちら)アンシブルの「同時性理論」を超える「チャーテン理論」で、情報以外も光速を超えられる可能性を示唆した。
そして「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」の長編としては1995年の未翻訳"Four Ways to Forgiveness"に続くのがこの作品で、現時点では「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」の最新作である。ただし、時代はまた、宇宙連合創成期に戻る。
地球のインド出身の宇宙連合の「観察員」サティが派遣された惑星は、圧制による徹底的な文化弾圧が行われ、本も文字もすべて廃棄され、すでに文字を読めるものもいない。そこには、やはり地球で圧制を敷き、焚書を行った宗教組織の陰がちらつく。サティは、失われた文化を求め、辺境へと旅立つ。
これまでのル・グウィンの主要テーマのひとつ「異文化間の理解」を、さらに何段階も深めた展開である。
「闇の左手」(1969)「所有せざる人々」(1974)等に比べれば、若干地味かもしれないが、その分味わい深さは格別で、決して前述の作品に劣るものではない。