ともしびをかかげて(1959)

ローズマリ・サトクリフ
これを読むまでの経緯はこちら
サトクリフの「ローマン・ブリテン4部作」が岩波少年文庫に収録され始めたのは2,3年前からで、書店に並んでいるのを見かけては、ぽつぽつ揃えてはいたのだけれど、当時は「ローマ=悪」「ケルト=善」という意識にこりかたまっていたために、結局つん読状態で、この本も購入していなかったのだが「落日の剣」を読むために購入。
ローマ軍が撤退した後のブリテン島が、さまざまな民族が入り乱れての争いのさなかにあった、ということは、文字で読んで頭で理解してはいても、ほぼ単一民族の日本人には、なかなかピンとこない点があるかと思う。
主人公は、ローマからブリテンに派遣された軍人の家系の子孫だが、ブリテン人としてのアイデンティティを持つにいたり、帰還するローマ軍より脱走。
しかし、サクソン人に父を殺され、妹を略奪され、本人はジュート族の奴隷として今のデンマークの地へ連れさられる。
やっとの事で脱走し、ヴォーティガン王と対立する前王の息子アンブロシウス(この作品では甥に当たるアルトスと共にアーサー王のモデルとされる人物)の元へ馳せ参じるまでが上巻の部分。
ここまでをサトクリフは、坦々とした筆致ながらも哀切をたたえた表現で、生活感あふれた描写で描く。これで、ほぼ単一民族たる日本人の私にも、切迫感を持って当時の様子が理解できる。
そして主人公は他部族との一種の政略結婚で息子を持ち、サクソン軍との戦いの最中に、妹そっくりのサクソン軍の若い兵士に出会う・・・・・
カーネーギー賞受賞の名に恥じぬ、深みの中に哀切と暖かさをもった傑作であろう。少年文庫に入っているからと言って、大人が読むのに何の遠慮もいらない。「ケルトの白馬」なみに感動した。やはり今が読む時期だったのだろう。
さあ、いよいよ「落日の剣」だな。