ローズマリー・サトクリフ
岩波書店で言うところの「ローマンブリテン4部作」の4作目「アイクラ家のイルカの指環シリーズ」としては、時系列的には「銀の枝」の後、執筆的には「ともしびをかかげて」や「夜明けの風」の約20年後に書かれた作品。
自分の判断ミスにより、部隊を壊滅させてしまった主人公は、ブリテンの北の果てへ左遷される。そこは、部族民と落ちこぼれ兵士で構成されるあらくれ部隊だった。
サトクリフの作品の根底には、異文化との出会いと相互理解がある。これはアーシュラ・K・ル・グウィンにも通じるテーマである。
ローマンブリテン・シリーズの主人公達は「第九軍団のワシ」でケルトと出会い「銀の枝」では、ブリテンを国として意識し始めるものの「ブリテン人」としてのアイデンティティは、今だ萌芽のレベルであくまで「ローマ人」である。
それが「ともしびをかかげて」で一気に「ブリテン人」になるため、「銀の枝」と「ともしびをかかげて」の間にかなりの意識の差がある。
つまり、20年を経てサトクリフがこの作品を書いたのは(彼女が意識していたかはわからないが)主人公達のアイデンティティの変化をスムーズにするために、上記2作品の間を埋める作品として必要だったのでは?と思った。