邦光史郎「幻の近江京」「幻の高松塚」

邦光史郎「幻の近江京」(1974)
幻シリーズ第2作である。前作では傲岸不遜の女嫌いの中年探偵神原東洋が、親子ほども違う年頃の女性に恋をしたせいか若干性格が丸くなっているのが微笑ましい。
天智天皇の近江京の場所が特定されていないということを、寡聞ながら知らなかった、というか意識したことがなかった。
どうしても「天智、天武 非兄弟説」とか「天智天皇暗殺説」とか、そっちの方に興味が行く。
邦光史郎の取り上げるミステリーテーマとしての古代史は、良く言えば堅実、悪く言えば地味であるが、それが「社会派」たる由縁なのだろう。
ちなみに神原東洋が恋する女性は若い恋人と結ばれ、東洋はめでたく失恋ということになった(笑)もしかしてこのシリーズ、このパターンでいくのか?

邦光史郎「幻の高松塚」(1975)
高松塚古墳というのは、なぜかはわからないが、昔からどうも興味が持てない。
なので、ちょっと別の角度からこの作品について書いてみる。
前半に
--俺とは一体何なのだろう。
--人は何故生きているのだろうか。
に始まって、延々新書版で2ページ分にわたって、ストーリーに直接関係ない、若干哲学的な記述が続く。
この人の作品は「幻シリーズ」以外に読む予定はないのだが「幻の出雲神話殺人事件」でも書いたとおり、ミステリーに平気で超能力を出したりしていて、この人も高橋克彦さんみたいに、通常の作家の範疇に収まらない何かを胸に秘めて、作品を書いていたんだろうか、等と思ってしまう。