池波正太郎「剣客商売」シリーズについて

池波正太郎剣客商売」シリーズについて
剣客商売」は、作者の死去により、最後の長編「浮沈」にて未完のまま幕を閉じる。
しかし、解説にもあるが、作者はこの作品が最後になる事を感じていたのでは、という事が作品の内容のそこかしこで伺える。なので、シリーズ最終作としての収まりはよい。
以前にも書いたが、当初私はこのシリーズは秋山小兵衛、大治郎親子を主役として、後に大治郎の妻となる女武芸者三冬がからむのが大筋と思っていた。しかし、シリーズが進むにつれ、大治郎と三冬の出番は減り、小兵衛の単独主役の観を呈してきた。
解説にもあるが、執筆開始時は小兵衛よりもはるかに若かった作者が、シリーズが進むにつれて小兵衛の年に近づいてきて、自分と同一視しはじめたのでは、というのはよくわかるが、個人的にはさみしかった。
生前のインタビューで、このシリーズが続くのが可能であれば、大治郎と三冬の一子、小太郎を主人公に据える構想もあったようだ。そうなれば大治郎と三冬の登場場面も増えただろう。
しかし、作者の案では、小太郎は実直な朴念仁である大治郎よりも小兵衛の性格を引きついて、女性関係もかなりやんちゃをする展開だったようだ。
なんか、そんな展開もいやだなあ、と個人的には思うので、やはりここで終りで良かったのだろう。痛し痒しである。