海音寺潮五郎「王朝」

以前、あるスーパーの2階に古本があるという話を書いたが、奥さんがそこに寄るたびに(足が私)またなんか発見があるかも、とチェックするようにしていたのだが、先日海音寺潮五郎の「王朝」という文庫本を見つけた。え?海音寺潮五郎平安時代?と思ってちらちら見てみたら、短編集でタイトルに和泉式部というのがあったり、作品中に藤原兼家の名があったりして、興味を持って帰宅して調べてみたら、終戦直後GHQの圧力から、武士が主人公の戦国や江戸時代の話が書けずに、苦肉の策として平安時代に舞台をとった作品を書いたとのこと。
今の大河ドラマの時代なので、何か縁を感じて、ユーズドでお安いのを購入。
平安時代ではあるが、貴族だけではなく、武士も僧侶も盗賊もくぐつも出てくる。鎌倉時代の承久の変の時代の話もあった。
前九年の役源頼義の父源頼信と若き日の頼義の話は今昔物語が元ネタだが、かなり話を膨らませている。また能や古典から話をとっているものもある。しかし、一ひねりも二ひねりもしてあり、なかなかに読み応えがある。
例えば「好忠の怒り」は彼の娘の恋路の要素を足してなんとも切ない読後感を醸し出しているし「つわもの」は、武名への誇りの虚しさまで突っ込んでいる。
「東夷」は主人公の名前が検索しても出てこないのでオリジナルと思えるが、はらはらしたあとのハッピーエンドはほっとした。
「有為の奥山」は歌人として有名な平定文(通称平中)の話だが、もしかしたら「平中物語」に元ネタがあるかもしれないが手元にないので確認しようがない。(追加情報、今昔物語にもあった、平中物語にもあった)
兼家が出てくる話は「光る君へ」でもお馴染みの花山天皇出家の陰謀の話で、続く「法皇行状録」はその後の花山院と長徳の変の話。
最後にそのものずばりの「和泉式部」について。これは彼女の死後の話だが、ラストの登場人物に仮託したたぶん作者の和泉式部評がなんともうならせられる。

さて、以前にも書いたが「今昔物語集」は天竺部、震旦部は時々読み返したりするが、本朝仏法部はなんとか読んだが本朝世俗部は未だに読み始めようとしても途中で挫折し続けていたが、これを機会に腰を落ち着けて読んでみるかな。あと「和泉式部日記」も持っていても読んでないのでこれも読もう。あと「平中物語」も手に入れば読んでみたい。