アーシュラ・K・ル・グウィン「ゲド戦記 - 火明かり」

まさか、アースシー・シリーズの新刊が出とは望外の幸せである。ル・グウィンファンは皆さぞかし泣いて喜んでいる事であろう。
内容は

初訳の序文(後述)
初訳の短編2本
既訳のエッセイ3本(「夜の言葉」で訳出済み)
初訳のエッセイ1本

の日本独自編集である。既訳を含めなければ1冊の分量にならなかったのだろう、これはしょうがないし初訳が読めるのだからなんの文句もない。
短編はゆっくり読むこととして初訳の序文とエッセイを読む。
日本独自編集なのに序文とはどういうことかというと、2018年に発売されたイラスト入りアースシー全集の為に2016年に書き下ろされたものとのこと。
なので、アースシー・シリーズのイラスト事情について書かれている部分がある。
曰く、出版社があまりにも作品内容と違う表紙やイラストを使うので文句を言ったが受け入れられないのである時期からこのシリーズのイラストを一切やめてしまったとのこと。
例えば「魔法使い」のステレオタイプだったり、主人公の肌が勝手に白くされていたり。
以前「白く塗られた EARTHSEA」について書いたことがあったが

https://hakuasin.hatenablog.com/entry/20060811/p3

ドラマ以前にアースシーは白く塗られていたのだ。
それが時の流れによって、やっとル・グウィンの意向どおりのイラスト入りの全集が出せることになった、というわけだ。
そして、これは次の初訳のエッセイ(1992年の講演が元になっている)でも詳細に語られるが、なぜアースシー・シリーズが第3巻のあと18年も間が空いてしまったか、の作者による解説である。ここら辺は実際に本書を読んでいただいた方がいいであろう。
以前、知り合いの女性が子供の頃第3巻までを愛読していて4巻目を読んで違和感があってあまり好きではない、と語っていたことがあったが、それは(作者を含めてだが)多くの人が無意識のうちにある落とし穴(エッセイ中でル・グウィンは「呪い」という言葉を使っている)にはまっていた、ということが今回よくわかった。


ネットで拾った上記の全集のイラスト。見よ!これが真実のゲドとテナーだ(と思う)