ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」ロイド=ジョーンズ校訂による原典版

ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」ロイド=ジョーンズ校訂による原典版
クラウディオ・アバド(指揮)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1993)
アナトリー・コチェルガ
フィリップ・ラングリッジ
サミュエル・レイミー
マルヤーナ・リポヴシェク、他
どうしてもリムスキー=コルサコフ版以外のCDも欲しいので、最も廉価で中古のあったアバド盤にまでいきついてしまった。普通ならアバドなんか買わないのに(笑)
先日のゲルギエフのDVDと同じ、ロイド=ジョーンズ校訂による原典版である。
ムソルグスキーが残した「ボリス・ゴドゥノフ」は1869年の初稿と、1872年(出版は1874年)の改訂稿の2種類があり、ロイド=ジョーンズ校訂版は、改訂稿を基にしているが、第4幕のみ、初稿の第1場と改訂稿の第1場と演奏する。
こう書くと、重複しているように見えるが。
初稿の第4幕
第1場「聖ワシリイ大聖堂の場」(A)
第2場「ボリスの死」(B)
改訂稿第4幕
第1場「ボリスの死」(B)
第2場「革命の場」(C)
ということになっており、(A)(B)(C)の順に演奏される。つまりは、単に改訂稿で削られた「聖ワシリイ大聖堂の場」が復活した、ということなのだった。

さて、このアバドの演奏を聴くと、原典版リムスキー=コルサコフ版に比して、管弦楽法が実に淡白であることが良くわかる。
最初は、リムスキー=コルサコフ版のような迫力が無いのが物足りなく感じる。
例えば、第1幕導入部は対位法がかっこよく、常に楽しみな部分なのだが、アバド盤はなんかかっこよくない。良く聴き比べると、ムソルグスキーは終始主旋律を弦楽器が担っているが、リムスキー=コルサコフ版は最初木管で始まり、弦楽器に主旋律を渡すところが、大変効果的で、さすがにリムスキー=コルサコフは、こういうところはうまいな、と感じさせる。
しかし、だんだんと聴き進めてゆくと、ムソルグスキーオリジナルの水墨画のような渋さに引き込まれてゆくのも事実。

今回、なんでこんなに「ボリス・ゴドゥノフ」にはまっているのか、よくわからなかったのだが、例えばオペラを聴きたいがイタオペやフランス・オペラの気分じゃないな、と言ったとき、残るドイツ・オペラとなると選択肢がモーツァルト、ウェーバー、ワーグナー、と極端に狭くなる、深刻なのが聴きたいが、ワーグナーほど押しつけがましくないものが聴きたい、となったら、もうほとんと無いわけだ。ムソルグスキーのオペラは、ムソルグスキーの音楽がいいのは勿論だが、上記のような隙間を、うまく埋めてくれたのだ、という気がしてきた。