シベリウス 「春の歌」原典版

シベリウス 「春の歌」(1895 年版)
ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団(2002)

「春の歌」については今まで書いていなかったが、シベリウスには珍しく明るさに満ちた曲で、聴いてゆくとけっこうはまるのであるが、はまってくると明るいだけの曲でないことが分かってくる(その点は後述)(ちなみに今まで手元にあったのはベルグルンド:ボーンマス交響楽団盤とネーメ・ヤルヴィ:エーテボリ交響楽団盤)
この曲にも原典版があり、ネット上ではこちらのほうがいいという声もあり聴いてみたかったので探したら、「大洋の女神」(海の精たち)各種が収録されたCDに収録されている、という事で、もともとはこちら目当ての購入であった。
さて、この曲は元々「春の悲しみ」という副題をもつ管弦楽曲であった。それが何回かの改定を経て今の形になる。なので、最初聴いた時は明るさが目立つが、聴きこんでゆくと隅々に陰影が施されていることがわかってくる。
さて現行版と原典版を聴き比べると、現行版は原典版をカットしている部分がある事がわかる。例えば木管による長めの序奏、中間部の金管によるファンファーレ的な部分等々。
序奏部のカットは惜しいが、現行版はファンファーレのカットのおかげで音楽の流れは良くなっているし、クライマックス部は原典版が少々粗削りなため現行版のほうが哀しみ(というか切なさ)の効果は高い。
これはどちらかを残してどちらかを捨てるのではなく、両方の版とも残して補完しあって聴くべきだと思う。

シベリウス 「大洋の女神」(海の精たち)各種

交響詩 「海の精たち」 作品 73 (イェール版)
管絃楽組曲 (1914) 断章 (「海の精たち」 の前作) 第2楽章 テンポ・モデラート
管絃楽組曲 (1914) 断章 (「海の精たち」 の前作) 第3楽章 アレグロ
交響詩 「海の精たち」 作品 73 (現行版)

ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団(2000~2003)

CD表記は「海の精たち」となっているが、通常は「大洋の女神」とされる曲のさまざまな版を収録したCDがあった。
ウィキペディアによると

米国の実業家・慈善事業家のカール・ステッケルがイェール大学教授のホレイショ・パーカーを通じてシベリウスに打診した依嘱作品

とのことで、その時の初演版が上記「イェール版」であるが、そもそもは3楽章形式で構想されたらしく、海外ウィキペディアによるとその第1楽章の楽譜は失われ、第2、3楽章のみが残っており、上記の「管絃楽組曲 (1914) 断章」2曲がそれにあたるようだ。
さて、現行版が約10分、イェール版が約7分半、主要フレーズは共通するものの、ほぼ別曲といっていい。
この曲は、海の波の混沌から時折美しいフレーズが沸き上がってくる構成だが、イェール版は混沌の度合いが深く、沸き上がるフレーズとの落差が大きい。その点現行版の方が自然な仕上がりになっている。
「断章」2曲も現行版にわずかに痕跡が残る程度で、こちらも別曲である。またまた未知のシベリウスを知れて嬉しい。