團十郎切腹事件(中村雅楽探偵全集1)

戸板康二
若い頃歌舞伎に興味を持ったことは以前書いた。当時は正月などにNHK教育等に(オペラもだが)けっこう入っていたので食い入るように見ていたものだ。
そして、毎月「演劇界」という雑誌等を買っていたので、戸板康二という歌舞伎評論界の重鎮については一応名前は認識していた。
その戸板康二が実は推理小説でも多くの作品を残していたことは寡聞ながら全く知らず、2007年から刊行され始めた分厚い文庫「中村雅楽探偵全集」(全5巻)を店頭で見かけたとき「あれ?戸板康二?知ってるはずだが・・・・」と半信半疑で手にとってみたら、やはり記憶していた戸板康二だったのでびっくりして、刊行されるだびに購入はしていたが、いつものことながら長らくつん読状態であった。
この第1巻には1958年〜1960年の短編を収録。
主役の中村雅楽は歌舞伎界の老名優ということで、お気づきの方もいると思うが、元シェークスピア俳優の名探偵、ドルリー・レーンへのオマージュである。
あの作品へのオマージュもある!解説を読まずに読んだので、読みながら「あれ?まさか?」と思いつつも、やはり犯人が分かった時は衝撃。あの作品と違い、犯人に悪意が無いだけに恐ろしさは倍増。
表題作は幕末の名優、八代目市川團十郎が大阪で変死した事件に対する、いわゆるベッドディテクティブで、二重の落ちも秀逸。
歌舞伎界の知識が無くても楽しめる短編集だが、ちょっとでも知識があると面白さは倍増する。

この中村雅楽シリーズ以外にも探偵小説(推理小説より探偵小説のほうが納まりがいい?)があるようだが、現在入手困難。ユーズド頼みか。