邦光史郎「幻の銅鐸」(1984)
それまでは1年に1、2作のペースだった「幻シリーズ」も一息ついたのか、前作から6年あいている。
そういえば、銅鐸というものを初めて知った時、それが日本史の中にまったく記載されていない謎の存在だと知ってびっくりしたものだ。それが埋められていたということは。つまりは大和王朝に滅ぼされた別の文化圏があったという証拠の他ならない。青銅文化であるなら、国譲りをした出雲王朝あたりであろうか。
アナログ時代興味を持って、復元した銅鐸を使った演奏のLPを買ったことがある。期待が大きすぎたせいか、あまり面白くなかった(笑)
それはさておき、ここでも古代史はミステリーの彩で、ミステリー自体も読後感があまりよろしくない。
邦光史郎「幻の貴人古墳 」(1989)
前作から5年を経て発表されたこの作品が「幻シリーズ」の最後の作品になる。
探偵役の独身中年、神原東洋も、とうとう40代半ばを過ぎてしまった(笑)
この作品は1985年ニ第1回の発掘があった藤ノ木古墳にちなんでいるが、謎の本命は藤原鎌足である。
昔から大化の改新の功臣、中臣鎌足が天智天皇から「藤原」の姓を賜った、という話を聴いて、何の価値があって「藤原」の姓なんだろうか、と疑問であった。特に目出度い名前でもない(平や源、さらに豊臣とかなら縁起がよさそうだが)地名かららしいが、それならわざわざ天皇からもらう必要もなかろうに。それとも天皇から下賜されたから尊いのか?
長男が出家し早世し、遅咲きの次男、不比等が娘を光明皇后にするまで出世した、というのもなんか不自然だ。
もしかしたら、出自を隠したい不比等が、先祖を中臣鎌足に結び付けるために「藤原」の姓を下賜された、という歴史をでっちあげた可能性もある。八切止夫ではないが「藤原」とトウゲンと読み「唐源」と当てるなら、唐を源とする一族、という仮説も成り立つ。
個人的な見解はさておき、この作品は鎌足の長男の早世の謎と、現代のミステリーをオーバーラップさせており、そういう意味では「幻シリーズ」の中で、最も歴史ミステリーらしい作品かもしれない。
ちなみにとうとう神原東洋には、春が来ないまま終わってしまった。