誰の死体?(1923)

ドロシー・L・セイヤーズ
セイヤーズのデビュー作にして、ピーター卿シリーズの第1作。短編集の時に(こちら)「かなり、怪奇、異常、あるいはトリッキーな事件が多く」と書いたが、この事件もまず、とてもありえないような犯罪状況がポンと提示され、これがこの人の手法なのだなとやっとわかる。
このシリーズはいかにも陽気でペダンティック、気楽な貴族の次男坊である主人公(ただし第1次世界大戦の後遺症で若干神経を病んでいる)をはじめ、とにかくキャラが立っていて、それを楽しんでいるうちにいつの間にか事件が解決していると言ってはいいすぎか。例えば彼の母上、ピーターがある人物から何かを聞きだそうとして、話のきっかけをつかむため、母親がバザーの演説を是非あなたにと頼んでおりまして、などとでまかせを話すのだが、その人物が、ピーターが母親に事情を説明する前に母親に会ってしまう。しかし、母親は、ピーターが事件のために、自分を持ち出したのだという事を瞬時に察し、話をさぐりながら、ちゃんとつじつまを合わせるような言動をするのである。なんと素晴らしい母親であろうか。そういう愛すべき登場人物ばかりだし、恋人の出現で彼の人格も深みを増してくるらしいから、読みきるのがとても楽しみなのであった。
PS.思惑を胸に秘めたピーター卿が、犯人らしき人物と対峙するシーンは、なかなかにスリリング。