学寮祭の夜 (1935)

ドロシー・L・セイヤーズ
これは文句無く傑作である。私にとっては「ナイン・テイラーズ」より上に来る。是非ハリエット登場の「毒を食らわば」「死体をどうぞ」(その前に初期を1作ぐらい)を読んで「学寮祭の夜」をお読みいただきたい。京極堂なみの長さであるが全く気にならない。ミステリーとしてのストーリーはあるが、さまざまなテーマが盛り込まれていて、そこらへんが本格派好きには評判が悪いのかもしれないが、そういう人は読まなくていい。「ミステリーではなくて恋愛小説だ」と言う人も読まなくていい。恋愛小説?何が悪い、そこら辺の百凡のミステリーや恋愛小説はたばになってもかなわんぞ!P・D・ジェイムズが影響を受けたというのが、今度こそ本当にわかった。
男性論、女性論、勉学を志す女の園とその内部問題、それに対する世間の目、犯罪者と被害者論、そして全く真摯に展開する独立した一女性としてのハリエットのピーター卿への気持ちの変化、etc etc「何よりも人間を描く」セイヤーズの真骨頂。犯人隠しも、わかってみれば常套手段だが、それに思い当たらせないようにうまく作ってある。後半やっと、それも唐突に登場するピーター卿、正に白馬の王子。ハリエットにとってではなく、私にとって(爆)ハリエットがピーター卿への愛を確信するシーンはなかなかにスリリング。
これで、次の「忙しい蜜月旅行」で、ピーター卿の長編もおわりか・・・・寂しいな。未完の作品を他の作家が完成させたものも翻訳されるらしいので、待ち遠しいな。