グリーン車の子供(中村雅楽探偵全集2)

戸板康二
第2巻は雑誌休刊による8年の休止期間をはさんだ1961年から1976年の短編を収録。
「本格推理短編」として始まったこのシリーズであるが、元々味わい深いストーリーテリングにも特徴があった。
休止再開後は、さらに滋味を増してきて、その分いわゆるミステリーの常道アイテムの「殺人」等が陰をひそめた。
元々殺人は嫌いだと公言していた作者であるから、本来はこう書きたかったという形になってきたのかもしれない。
「殺人」が無いからと言ってミステリーとして物足りなさがあるわけでは全く無く、そんなものが無くてもりっぱにミステリーが成り立つのだと言う証明になっている。
人間模様の機微等に深みがあり、これは一種「戸板康二流ミステリー」というジャンルが確立したのかもしれない。
ネット上でも、この時期以降の作品が好きだと言う意見も多い。
表題作は「第29回日本推理作家協会賞」を受賞しているが、受賞しているから言うのではないが、心地よい「してやられた!」感は群を抜いている。傑作であろう。
また「妹の縁談」は、ある程度見通せるなと思わせつつ、せつないラストが秀逸、これも傑作。