珍談奇談 オペラとっておきの話

ヒュー・ヴィッカーズ
懐かしい本を久々に読み返す。
オペラの演出家である著者が古今東西のオペラ上演についての失敗談を集めた"Great Operatic Disasters"(1979)"Even Greater Operatic Disasters"(1982)をまとめたもので、日本の初版は1982年である。
この中で一押しに面白い話があるのだが、オペラのストーリーをある程度知らないとその面白さが伝わらない。かといって、オペラの説明をしてから、その話を書いても実際面白いと思えるのか疑問である。が挑戦してみよう(笑)
演目はプッチーニの「トスカ」
舞台はフランス革命の影響を受け、ナポレオンの後押しをうけた改革派と悪政をしく保守派がせめぎ合う時代のイタリアはローマ、登場人物はスター歌手のトスカとその恋人の画家のカヴァラドッシ。
カヴァラドッシは改革派の政治犯である親友をかくまうが、嫉妬深いトスカは、恋人の様子がおかしいのは浮気ではないかと疑う。
そのすったもんだのせいで、ローマの警視総監スカルピアに政治犯をかくまっている疑いを抱かれ、スカルピアはカヴァラドッシを逮捕、拷問をしてその声をトスカに聴かせ、逃亡犯の情報を引きだす。
スカルピアは、明朝はカヴァラドッシの死刑を執行するが、一夜をともにすれば助けてやろうとトスカに持ちかけるが、もとよりトスカを手に入れても死刑は執行させるつもり。トスカは承知したふりをしてスカルピアを殺す。
明朝の城(監獄)の屋上、トスカは死刑執行の射撃隊が空砲を撃つと信じ、カヴァラドッシにうまく死んだふりをするのよと語りかけるが、射撃隊は実弾を撃ち、カヴァラドッシは死亡、スカルピアの死体を見つけた部下たちがトスカを追い詰め、トスカは屋上から身を投げる。以上が簡単なあらすじ。

  
さて、このオペラは、劇場経営者からは、困ったときの「トスカ」頼み的な扱いをうけるようだ。
あらすじからもお分かりと思うが、主要な登場人物がたった3人で、その他大勢はアルバイトでもやとえば、相当の経費節減になるからだ。

  
しかし、ある時死刑執行の射撃隊にオペラのオの字も知らない大学生のアルバイトをやとった時、喜劇は起こった。
やとったのは劇場支配人だが、演出は演出家であり、演出家にとってみれば、エキストラでもオペラのストーリーを知っているのはあたりまえ、という頭があったのだろう。射撃隊に詳しい説明をしなかったらしく「最初の合図で舞台へ登場、次の合図で発砲」との指示のみをあたえた。「いつ退場ですか」と聞くアルバイトに「主役といっしょでよろしい」
ところが舞台へ出てみると射撃の標的が二人いる。オペラを知っていれば撃つ対象はカヴァラドッシとわかるのだが、アルバイトにはわからない。とうとうトスカに向けて発砲してしまう。ところが倒れたのはカヴァラドッシ。びっくりする射撃隊が落ち着きを取り戻すまもなくトスカが身を投げる。「退場は主役といっしょ・・・・」射撃隊も次々とトスカの後を追って身を投げる・・・・・
うーん、やっぱり面白さが伝わらない気がする(笑)
調べたらこの本は現在かなり高値がついている。いいものを所有しているな私は(笑)