Harbinger(1994)

Paula Cole
ポーラ・コールについては、以前ちらっと書いた。ピーター・ガブリエルの「シークレット・ワールド・ツアー」のバック・ボーカルとして、ライブCD、DVDで知ったのだが、当時は彼女ははっきり言って無名で(ネットでも引っかからなかった気がする)バック・ボーカルなんてもったいないなあ。こんなにすごいのにバック・ボーカルなんだから、欧米のアーティストの層は厚いのだなあと、妙に納得していた。が、やはり、もっと世に出てしかるべきだと思っていた。今回長くなるが、そこら辺の経緯を知ったので紹介する。
彼女が1stアルバムのレコーディングをしたのが1993年、しかしレコード会社の経営困難で、このアルバムは幻となる可能性が出てきた。ところが、このアルバムのプロデューサーが、ピーター・ガブリエルの大ヒットアルバム「SO」のエンジニアをしていた関係で、ピーターバンドのギタリスト、デヴィッド・ローズを経てピーターの耳に入り、ピーター自らが「シークレット・ワールド・ツアー」への参加を要請した。そのおかげで名前が売れた彼女は、めでたくこの1stをリリースすることができ、2nd「This Fire」(1996)は、グラミー賞7部門(本人によるプロデュース賞を含む)にノミネートされ、(結局受賞は、ベスト・ニュー・アーティスト賞」のみとなったが)たった2作で、押しも押されぬ大アーティストになってしまったのだった。
考えてみるに、もし1stが順調に発売され、ピーターのツアーへの参加が無かったら、この人の今はあっただろうか?もちろん実力はあるのだから、いつかは売れたのかもしれないが、こういうドラマチックな展開は無かったかもしれない。困難に見える状況も、実は成功への夜明け前だったりするのだ。
さて、今回は幻となったもしれない1st。びっくりするほど素直に耳に入ってくる。聴きやすいという意味ではない。なんかピーターと同じ匂いを感じる(ピーターに会う前なのに)音楽性が似通っているわけではない。途中で気づいたが、この人の音楽は、表現したい内容、聴き手に伝えたい内容があるんだそ!という真摯な思いが、曲作りにも歌声にもサウンド作りのはしはしまでこもっている(溢れている)のである。そこらへんをピーターも感じたに違いない(この人はすべて自分で作詞作曲をする。シンガーソングライターって未だに死語ではないのかな?)ジャンル的には「ポスト・ロック」にあたるのか(ここらへんのジャンル分けは、もうおじさんにはわからない)声のコントロールが完璧だ。以前、美しく、力強く、のびやかな歌声と書いたが、さらにピアニッシモに抑制されたファルセットも抜群である。(宇○田ヒカルって実は、この人の影響があるのか?ピーターの影響は感じていたのだが)なんにしろ、「シークレット・ワールド・ツアー」を聴いた時の、個人的な思いがかなったようで、大変うれしいのだった。