アネイリンの歌 ケルトの戦の物語

ローズマリ・サトクリフ(1990)
6世紀のウェールズの詩人、アネイリンによる叙事詩「ゴドディン」よりサトクリフが自由に紡ぎ出した物語。

ゴドディンとは、今のスコットランドのアントニンの壁とハドリアヌスの壁(長城)の間の地域で、史実のアーサー王、アルトリウスがそこに駐屯(建国)したとされる場所。北からからのピクト人、ユトランド半島(現在のデンマーク)やドイツ北部からのサクソン人(やジュート人、アングル人)アイルランドからのスコット人、の侵略戦争の真っただ中の地域である。
そして、「ゴドディン」は、(過去の人物としてだが)アルトス(アーサー:アルトリウス)の名が登場する最も古い文献なのだ。なのに「ゴドディン」自体の邦訳が無い。なんとかならんか。
「ゴドディン」で語られる、サクソン族に壊滅させられるゴドディン族の果敢な戦いの姿は、アーサー王伝説の発祥に大きな影響を与えたとされる。
つまりは、「アネイリンの歌」は、サトクリフの「ともしびをかかげて」「落日の剣」の広い意味での続編的な位置づけにある。
 
とはいえ、これは少年少女向けの話である。
主人公は、対サクソン軍編成のためにゴドディン王から招集された、地方の王子の従者の少年(と言っても地方領主の次男)と彼の奴隷でありながら友人である少年で、実際の戦いまでのあり様が、生活感をもって語られるのはいつものサトクリフ節。
その軍の役目は、サクソンの国へ攻め込み、砦を確保して、同盟国の援軍を待つこと、しかし、援軍は来ず、サクソン軍に包囲され、人も、食料も減って行くばかり、彼らは決死の特攻をかける。
戦いの結果は悲惨だが、結末には救いがあってほっとする。