蝶々殺人事件 横溝正史

横溝正史の作品は、気に入ったものしかもっていなかった。由利麟太郎が主人公の長編は、以前表紙が印象的だったと書いた「真珠郎」だけであった。(その後、その表紙のものも入手した)

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角川文庫の杉本一文による表紙はいずれも印象深かったが、その中でも「誘蛾灯」と並んでエロさでは一、二を争うであろう「蝶々殺人事件」は、コントラバスのケースが死体の隠し場所である事からもわかるように、舞台はクラシック、それも戦前の歌劇団であるから、いつかは読んでみたいと思っていたのだが、やっと読むことができた。(ちなみに表紙では全裸だが作品内では服を着ている!)
読んでみて、終戦直後の作品として「本陣殺人事件」と並び称されているという事に納得した。
ミステリーのアイテムがこれでもかと詰め込まれている。あげくに例の名作のトリックも最後の最後に取り入れられていてびっくりした。
読み終わって思ったのだが、第1章を読み始めて、序章での由利麟太郎の一言に妙に違和感を感じた。終わってみると、それが作者からの重大なヒントであった事に気づいた。うーんすごいぞ。
ちなみに前述の「本陣殺人事件」は金田一耕助初登場の作品であり「蝶々殺人事件」は由利麟太郎の最後の作品である。奇しくもこの2大傑作で、横溝正史の名探偵の交代劇が行われたことになる。
ちなみに、横溝正史はオペラに造詣が深いとみた。元バス歌手の当たり役がメフィストフェレスとあったが、これはグノーの「ファウスト」であろう。クラシック・ファンでもなかなかグノーの「ファウスト」までは把握していないと思う。