「夜明けの風」(1961)

ローズマリー・サトクリフ
「落日の剣」「アネイリンの歌」で、アーサー王関連も一息ついたと思ったが、「ローマン・ブリテンシリーズ」でアイクラへと受け継がれてきた「イルカの指環」を持つ少年が主人公の、アルトスが没して100年後の時代を描いた作品があった(汗)
執筆は「ともしびをかかげて」が1959年「落日の剣」が1963年なので、サトクリフとしては、こちらの方を「ともしびをかかげて」の続編として書いたのだろう。
時系列的には「ともしびをかかげて」「落日の剣」の後になる。
「アネイリンの歌」(1990)との時系列的関係は微妙で、「アネイリンの歌」(叙事詩「ゴドディン」)に描かれた戦いが600年頃、「夜明けの風」でケント王がカンタベリー司教としてアウグスティヌスを招くのが597年なので、たぶんほぼ同時代だと思われる。ただし「アネイリンの歌」はブリテンの北部、「夜明けの風」はブリテンの南部が舞台なので内容に絡みは無い。
サクソン軍に敗れたブリテン軍の少年は、逃避行の途中でであった少女の病気を治すために自らサクソンの奴隷となる。
既にブリテンの大部分はサクソンの国々で成り立っていると言う、厳しい現実を少年は生きていかなければならない。
「ともしびをかかげて」に一見似ているようだが「ともしびをかかげて」は魂の成長物語だが、こちらはその厳しい現実を、ブリテンの誇り(いや、民族の違いにかかわらず、人間同士の信義を全うしようとする、人間としての誇り)を失わずにいかに生き抜いて希望に到達するかの物語。
この作品もかなり深い、感動した。