ベルリオーズ 「トロイアの人々」について(と、ギリシャ神話の話)

ベルリオーズのオペラ「トロイアの人々」は4時間の大作で、その長さゆえに初の全曲上演が作曲後100年を経た1969年(コリン・デイヴィス指揮)完全版が演奏されたのがこのデュトワ指揮1993年で、その上演後にスタジオ録音されている。
今まで何回か引き合いに出している「オペラ名作名演全集」に引用されているオペラ研究家永竹由幸氏が、フランスが作者の存命中の全曲演奏を許さなかったせいで、ドイツのワーグナー、イタリアのヴェルディと同等の正当な評価をベルリオーズが受ける事ができなかった、といった内容の指摘があった事が書かれている。それに継いで、著者(松本矩典)は、ベルリオーズが評価されていれば、その後のフランスオペラ界の混迷はなかった、とまで言い切っている。
さて、内容であるが、第1部(第1幕、第2幕 約90分)がギリシャ神話のいわゆる「トロイの木馬」、第2部(第3幕、第4幕、第5幕 約150分)が、古代ローマの詩人ウェルギリウスのローマ建国神話を扱った「アエネーイス」を題材としている。
第1部は、戦いに敗れたカッサンドラを始めとするトロイの王女達が、ギリシャの奴隷となる事を拒んだがゆえの集団自殺で終わり、第2部は、敗れたトロイの生き残りであるアエネーイスが、後にローマを建国するイタリアへ向かう際に立ち寄ったカルタゴで、その女王と恋に落ちながらもトロイの冥界の霊たちの命令に逆らえずに女王を捨てて旅立ち、女王は自殺、カルタゴの民の怨嗟の合唱で終わる、という悲痛な悲劇。

この話の前日譚として、トロイア戦争の原因であるパリス(アレクサンドロス)とヘレネーの話もあるし、カッサンドラがなぜ予知能力をもっているかの話もある。
また後日譚として、R・シュトラウスがオペラ化した「エレクトラ」の話やフォーレが後半部分を「ペネロープ」としてオペラ化した「オデュッセウスの航海」の話もある。ギリシャ神話は膨大だな
ギリシャ神話でも北欧神話でも、だいたい神々は自分勝手なのだが、上記のカッサンドラがなぜ予知能力をもったのかの話もあまりにひどいのでよく覚えている。
ゼウスの息子アポロンに言い寄られ、真実の愛のあかしとして予知能力を授かるが、予知能力を得たカッサンドラは、アポロンが自分を捨てて去って行く未来を予知し、アポロンを拒む。拒まれたアポロンは腹いせにカッサンドラの予言を誰も信じない、という呪いをかける。カッサンドラは、トロイを救うために数々の予言をするが、誰も信じてくれずにあげくにトロイは滅亡する・・・・アポロン、くずやん。いや、そもそものトロイア戦争の原因も元を正せば神々だ(長い話になるので省略)
このオペラでは、上記のように集団自殺するカッサンドラであるが、神話では勝者アガメムノンのものになるが、嫉妬したアガメムノンの妻クリュタイムネストラによりアガメムノン共々殺されてしまう。その事もカッサンドラは予知していたが、人生に疲れていたカッサンドラはあえてその運命に従った、という話になっている。
ちなみに上記のR・シュトラウスのオペラ「エレクトラ」のエレクトラは、そのクリュタイムネストラの娘で、エレクトラの弟オレステスが、父の仇としてクリュタイムネストラを殺す話が「エレクトラ」である。しかし、クリュタイムネストラにも同情の余地はある。実はアガメムノンは前夫の仇であるし、エレクトラの姉をトロイア戦争のための航海の人身御供にされている、という恨みもあるのだ。
余談が長くなってしまったが、当初「トロイアの人々」を聴くためにデュトワベルリオーズBOXを買ったのだが、どうもそれだけではおさまらなくなってきそうな感じである。
とにかく長いので、全体を把握するまでかなりかかると思うので、しばらくブログの更新が無いかもしれない。