ドロシー・ギルマン
ミセス・ポリファックスシリーズ第1作(1966)の翌年に発表された作品。この頃は未だミセス・ポリファックスが長期シリーズ化するとは、作者も思っていなかったに違いなく、第2作が発表されるのは1970年である。
なので、想像だが、ギルマンは当時「素人がスパイ事件に巻き込まれる」といった作品を模索しようとしていたのかもしれない。
そう、このメリッサも素人である。しかも精神科医の勧めで離婚後の傷心旅行中である。すぐに男性を白馬の王子様のように理想化してしまう、ある意味惚れっぽいタイプかもしれない。そして、それが若い結婚と破局の原因でもある。
こう書くと明るいタイプかと思われるかもしれないが、なにせうつ病だったのだから大変だ。
サスペンスなのか、恋愛小説なのか、精神分析入門なのか、魂の成長の物語なのか。やはり模索中だったということか、いやいや、これは大変な意欲作である。正直言ってこんなスタイルの小説は初めて読んだ。
サスペンス的、恋愛小説的には(示唆はあるが)実はちゃんとした結末は付いていず、主人公が何者にも頼らない本当の自己を発見したところで話が終わるという異常さからも、この作品の特異性がわかる。
これは全くの勝手な想像だが、もしかしたらこの小説はミセス・ポリファックスシリーズ第1作ほどの世間的成功はおさめなかったかもしれない。そして3年悩んだ挙句、ミセス・ポリファックスシリーズ第2作となり、そちらは成功したためにその後は毎年のようにミセス・ポリファックスシリーズが書き継がれていったのかもしれない。
世間的な成功はミセス・ポリファックスシリーズでも、やはり彼女の本質はこういった作品のほうに大きく表れていると個人的には思う。