北村薫「空飛ぶ馬」(1989)
私はせっかちである(笑)なので、ミステリーやSFは、ぱっと読んでストーリーがわかるものが読みやすい。勿論ミステリーでもSFでも、じっくり読まなければならない作品があるので、そういう時は腰を落ち着けて読むようにしている(が、未だに何遍挑戦しても小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」は挫折しているのがくやしいのでいつか完読しやる!)
さて北村薫のデビュー作にして「円紫さんと私シリーズ」第1作のこの短編集は、腰を落ち着けて読まざるを得ない。殺人の無い本格ミステリーが、抒情性たっぷりの文章で描かれる。その抒情性たっぷりの文章の中に、そこはかとなく伏線がはられ、最後に理路整然とした結末が導かれる。これは当時はまったくの新しいミステリーだったに違いない。
ミステリー作家は、知識量がはんぱない人が多いが、この「円紫さん」は落語家なので、いわゆる江戸文化やら、さらにオペラやら東西の文学作品やらどんどん深い話が出てくるのも魅力。個人的にはやはりオペラがうれしい。
また、連作短編の謎の種類や並べ方から19歳の女子大生「私」の「女性」としての成長が裏テーマであることが垣間見られる(個人的な想像です)ので、この後の展開に期待大である。